菊に向かいて しきりに落ちる 夜長の時計 風に後れて 取ってくれろと 池を巡りて 店よりリンゴ 月に読まるる 一語一語の 壁をふまえて いただきますと 雨の力の 風の力の 今日はどこまで 貧しき街を たとえば秋の カカシの顔の 月落ちかかる 音うれしさよ 離れし蝶の 深き地中を 秋の風鈴 日当たりながら 奈良には古き 残るものみな 日々静物を 鐘が鳴るなり きちきちと飛ぶ 我が足見ゆる 隣は何を 打ち込む杭の 模様の違う むしりたがりし 筑波に雲も 聞こえぬ土の 花のさざめく 帰る故郷 沈むがごとし 届く限りの 庭のどこかに 草を持つ子の 振って別れて 大きな星が 旅人来ては 行く汽車止まり 目まで濡らして 言うといえども 一つ一つが 座って見ても 祭りの中を 海を見ている 山を見ている どこまで行けば 人差し指に 手紙の中は 丘に登れば 山に登れば 海に入れば 月に色づき 白きつつじの 始まる前の 月さしわたる 遠くの方で 月ぶら下がり 甘くなりたる 淋しき花や 淋しき夜や 淋しき朝や 音に始まる 逃げ行く空や 花屋の水の 賀状したらほら 雪がちらほら 雨がシトシト 雪めずらしや 霜を払って あちらこちらへ いづれか先に 牛の寝ている 二つ並んで 花の香りに 登りて行きて 音静まりし 話している間に 箱傾けて 雪の深さを 後に花なし 雨が降るなり 並べて置くや 夕日とどまる 折れ曲がりたる ぶつかりあいて 髪ふさふさと 寝返る音や 吹きあつめたり 東にたまる 夕陽しばらく 朝日が射し込む あくなく晴れ詩 言葉うばわれ あたり払って 暗きところに 机の上の 落ちたるほかに 日のよく当たる 窓いっぱいに 心はずみて また振り出しへ 餅の中から やさしき兄も 優しき姉も 顔をつん出す 遅れ走りて 春立つ庭は 川も流れて ことしの春も ひとつ残らず 影に春めく キリンの上の 庭盛り上がる 雪かき混ぜて 事を思い出す 足の短き 茜さしたる 投げて流れに 下駄から春は 茶を飲む音の 親子の馬が 白きが上に 富士のふくれる 月は東に 波いそがしき 雨みどりなり 回りて一つ 座敷を歩く 人みなやさし 水を渡るや 山を過ぎゆく ネズミのなめる 名もなき山の 家路に遠し 庭に雀の 暗がり走る ものの果てなる 松の根っこも 犬に会いける 両手に受けて 空にやすらう 窓よりい出て カエル飛び込む 下がり始める 何やらゆかし 村一ぱいの 重たき琵琶の むけば輝く 背中をこする ぼたぼた雪の 時を刻んで 残り少なし 光さしたる どこに行くやら どこから来たか どこを向いても 悲しいほどに 楽しいほどに 嬉しいほどに 寂しいほどに どこもかしこも 北風ピューピュー 子供が騒ぐ 人里離れて 今か今かと 人が行き交う 我と遊べや