群馬の男女共学の完全実施を

テキスト ボックス: 群馬パース学園短期大学教授 専門:ジェンダー研究(特に男女平等政策)

―群馬県「高校教育改革」(前期)の男女共学化を目前にして―

 ‘054月から前期「高校教育改革」の男女共学化が実施され、また、この3月には後期改革プランの発表が予想されます。そこで、「ぐんま公立高校男女共学を実現する会」の内藤和美代表にインタビューし、それぞれの問題点を伺いました。

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―今回の改革で別学率のトップの座を栃木県に譲りましたが、なぜ、男女共学が急がれなければならないのかからお伺いしたいと思います。

内藤さん:なにより、公の制度の県立高校で別学が容認されてよいのかが問われなければならないと思います。つまり、特定の性別の生徒に入学資格を与えない制度を維持してよいのかということですね。伝統や・実績ということがよく言われますが、別学をよしとする理由にはならないと思います。従って、群馬県としては一日も早く別学の制度を返上すべきだと考えます。また、前期教育改革方針の中で、共学の方向性は示されているが、完全共学化を図るのか、一部、別学校の存在を許容し続けるのかが明確に示されなかったということがあります。

―群馬が完全共学化にならない最大の理由はなんだとお考えですか。

内藤さん:率直に言えば、県議会の意見動向だと思いますね。埼玉と似ていて、首長がはっきり意向を表明しないわけですね。これに対し、完全共学化を実現させた福島やそれに向かっている宮城県では、議会内には多様な意見があったけれども知事がはっきりと姿勢を示して、県政として完全共学化をすることが実現しているわけです。群馬では議会の意向は完全共学化に強い疑問を呈する一群の声があって、実質上これがストーリーを決めているようなおもむきですね。

―この1、2年で「教育基本法」の男女共学の項削除とか憲法「改正」、男女共同参画その他にバックラッシュの動きが活発化していますが、その点で共学の動きについてはどうでしょうか。

内藤さん:そういう意味では逆風だと思いますね。今おっしゃった一連のことについては、根本は性別に関する「男女本質論」に基づくものなのですね。それは、男と女は生物のオス・メスとしての違いがあるように社会的存在としても本質的に異なるもの、という人間観に立つものですね。この立場に立てば、男子・女子に固有の教育は有り得るわけで、別学校を容認する考え方と連動します。しかし、この考え方は国連をはじめ国際社会の動向から考えて、ナンセンスだということは明らかですから、怖れず、怯まずに誤解と曲解を解く努力が求められていると思います。

―この4月から新しく共学校になったいくつかの高校がスタートするわけですが、先生がお気づきになっている問題点を指摘していただけたらと思うのですが…。

内藤さん:現場では校庭・制服・トイレなどの現実対応で追われているという実情が報告(‘041121「伊勢崎・佐波の教育を考える集い」)されていましたが、制度上共学になる学校における男女平等教育の実質化の議論を欠いた現実対応でよいのかという疑問を持ちました。例えば、男女共学の下では制服はどうあるべきか、カリキュラムをどうするかが議論され、どのように行っていけば男女平等教育が実現するかがスタート前に問われるべきだと思うのです。たんに別学校を一緒にしただけの共学校ではなく、生物学的には性別の特徴(中間系があることを忘れないという条件付で)を持ちながらも個々人としてクラスを構成し共に学びあうという、性別に係わらない教育を実質化していくという議論がどれだけ展開されたのかが大事だと思います。とはいっても、多忙の中ですから、出来なかったのであれば、やりながら共学化の実質化を深めていく実践を展開してほしいと思います。

―現場では共学化に戸惑いみたいなものがあると聞いていますが…。

内藤さん:なぜ不安に思うのかの中にはある種、性別の固定観念がありはしないか、個々の個性と向き合って個性の開花や成熟・発展に手を貸していくことが教育だとしたら、性別は生物としての構成要因に過ぎないわけですから怖れるに足りないことですね。しかし、この議論が教師集団で十分になされていないとしたら教師個々人の暗黙知が持ち込まれる恐れはあります。

―外部の研究者などを交えての男女平等学習も大事だと思うのですが…。

内藤さん:福島県の名門女子高が新制共学校になるに当たって、名門校の伝統を堅持するために進学実績を上げることに特化して活路を求める動きがありました。第二○○校にはなりたくないというわけですね。本当に地力のある学校は、進学実績もその一つの要素ですが、子どもたちの多様な個性が育てられ、主張する市民としてしっかりした力をもって次の道に歩いていけるような、地域社会に支持される共学校つくりを目指すべきと思います。そのためには開かれたメンバーを入れたり、開かれた機関からチェックされるような仕組みを持って地域の様々なメンバーと共に運営していく学校みたいな新しいスタイルも模索する必要を感じます。

―これからの共学校の課題はなんでしょう。

内藤さん:共学校における性別に係わらない教育、男女平等教育をどう実質化していくのかの議論を共学化で終わったのではなく、これからのつもりできっちり議論したり、考えあったりして、実践していくことだと思います。今回の報告を聞いていますと、不問の前提から始まっているように思えますが、しかし、この不問の前提を問い直すことによって、男女平等教育の本来のあり方が見えてきて性別に係わらない教育の実質化が始まるのかもしれないとも思います。その上で、或いは並行してカリキュラムとか教育実践を積み上げていく事が大事だと思います。

―群馬の伝統別学校の共学化についてはどのようにお考えですか。

内藤さん:別学校の存在がたんに別学校があるというだけではなくて、実質上偏差値と連動している形で別学・共学が存在しているということなのですね。各中核都市に偏差値の高い子たちを受け入れる別学校がペアで在って、その下にあまねく共学校があるという構図ですね。問題はこの構造の罪深さです。仮にもし、前橋、高崎の別学ペアセットだけを残すようなことがあるとするならそれこそ群馬県の姿勢が問われますよね。群馬は遅れに遅れているわけですから、準備期間を十分とって共学校になった後のデザインも事前に議論して、まず、前橋・高崎から実現する方向性をとるべきと思います。もう一つ、小学校で男女混合名簿が始まっていますが、これに期待しています。これは、些細なことに見えるかもしれませんが、私の前任大学の経験では、1997年に入学してきた学生に対し、いろいろな学科の先生たちが一様に「今年の1年生は違う」というのです。小学校入学時から「個性の重視」をうたった新学習指導要領のもとで教育を受けてきた学生たちでした。「たかが、されど」と思いました。教育の条件は子どもたちの育ちに大きな影響を与えますのでね。

―この3月に後期の「高校教育改革」が発表になると予想されますが、これについては…。

内藤さん:最大の注目点は完全共学化か増分(出来るところから順に)方式で別学校の存在を許容するのかであると思います。そして、計画が発表されたらその運用・実施についてきっちりと意見を上げていくことだと思っています。また、完全共学化でない場合には、まず、共学の本質論からなぜかを問いたいと思います。その一方で、段階方式ならば、性別に係わらない教育を実質化していく準備も合わせて出来るようなスケジュール及び本質的な議論が現場で出来るような形で実現化させていくことも合わせて突きつけたいと思います。もう一つは利根・沼田のように普通科の別学率が極端に高い地域を放置いておくのかどうかも注目しています。

―「男女共学・男女平等教育」を現実に進行している問題と学校現場とを結びつけてお話いただいたのでよく分かりました。お忙しいところ有難うございました。       (文責:富田・橋本)

※なお、内藤先生に次の「性別に係わらない教育」の参考文献を紹介ただきましたのでご一読をお勧めします。「学校をジェンダーフリーに」(亀井温子・舘かおる編著 明石書店、2,000円)